ゲームのプレイ中に不幸な事故死を遂げた俺が、女神の計らいでゲーム内の世界に転生を果たし、『ヴァイン・リノス』の名を得てから18年後。
 新たな人生は予想外の監禁生活からスタートしたものの、なんとか軌道修正に成功し、自由と力、そして美しく従順な奴隷……もとい仲間を得ることができた。
 一気に道が開けた半面、何しろ急なことだったせいで、先のプランをじっくり考える時間が取れずにいるという問題もある。

「というわけで今日は、俺たちの今後を考えるついでに、これまでの出来事を振り返ろうと思う」
 王立学校の空き教室。
 現在、王立学校の生徒である俺は、同じくクラスメイトとして入学した仲間──ラクシャルに向き合い、そう言い放った。
「はい、ヴァイン様! よろしくお願いいたします!」
 炎のように紅い長髪をなびかせ、うやうやしくラクシャルが一礼する。
 純粋な好意の笑みを浮かべてこちらを見上げてくるその様は、忠犬を見ているようで微笑ましい反面、整った顔立ちとまっすぐな眼光には、不意にはっとさせられることがある。
 うっかりすると、こいつが魔族であることなど忘れてしまいそうだ。

「よし、じゃあラクシャル。俺たちの……というか俺の、当面の目標について言ってみろ」
 机を挟んで俺が促すと、ラクシャルは着席したまま元気よく挙手して答える。
「はい。【テイム】で女の人を奴隷化したうえ、力を吸い取って自分のものにする……そのために、強い女の人を見つけることですね」

 ラクシャルの回答に、俺は満足して頷いた。
 俺はこの世界の女を手なずけて仲間にし、必要に応じてその力を奪い取ることができる。
 そして、その方法はというと……。

「そのためには、女の人を快楽の絶頂に至らしめて、屈服させればいいのですよね!」
「……ああ」
 ラクシャルに先回りで言われてしまったが、そういうことだ。
 俺は転生時に女神から授かった力によって、相手の服や防具を瞬時に破壊できるスキルと、相手を軽く撫でるだけでも絶大な快感を与えられる性的技巧を獲得した。
 接近さえできれば誰が相手でも一瞬で堕とすことができるし、実際、元々魔族の将軍にして人類の敵であったラクシャルも、そのようにして手なずけた。

 ラクシャルは紅潮した頬に手を当てて、うっとりと恍惚の表情を浮かべる。
「あの時、私を倒したヴァイン様の勇ましさといったら、私には生涯忘れることができません。しかも、ヴァイン様に牙をむいた私を許し、今では惜しみない愛情まで注いでいただけて……はあっ、私は世界一の幸せ者です……♪」
「浸るな、浸るな。戻ってこい」
 うっとりする表情も様になっているが、話が進まないので呼び戻す。

「さっきラクシャルが言った通り、俺はもっと色んな女から力を吸って、自分を強くしたいと思う。今のところは順調だな。ラクシャルに続いてゼルスをテイムした時も、大幅にパワーアップできた」
「ゼルス様は魔族を束ねる『魔帝』だけあって、比肩する者なき力の持ち主でいらっしゃいましたからね。ヴァイン様とゼルス様の戦いも、手に汗握る激闘でした……」
 ラクシャルは当時の興奮を噛みしめるように、目を閉じてしきりに頷く。
 しかし、あれがまっとうな戦いだったかどうかは……いや、気にしないでおこう。

 魔帝ゼルスはラクシャルの元主人であり、文字通り魔族を束ねる帝王だ。そいつにも俺の手で軽くお仕置きをして、手なずけたうえ力を奪うことに成功した。
 ラクシャルとは違ってテイムした後も反抗的な態度は崩れていないが、俺への攻撃はできなくなったので、ツンケンした態度も、今や俺を愉しませるだけになっている。
 現在は魔帝城に残って、引き続き魔族の統治にあたっているはずだ。

「まあ、そういうことでひとまず充分な戦力を得て落ち着いてきたし、これからの生活について少し考えようかと思うわけだ」
「夜の生活ですか?」
「夜限定じゃない。真面目な顔で訊くな」
 確かにそれも大事な話ではあるが、もっと先に決めないといけないこともある。

「今、俺たちは学生として王立学校にいるが、この立場はあくまで一時的なものだ。ひとしきり楽しんだら、もっと言うと学生に飽きたら、またふらっとどこかへ行くことになるだろう。そこで、快適な旅のために必要なものを考えておきたい」
「そういうことでしたら……まずは、人間社会に詳しい方が仲間にいると、やりやすくなるかと思います。私とゼルス様は魔族ですし、ヴァイン様も長年の監禁生活で、不慣れなこともおありでしょうから」
 人間社会に詳しい者──。

 その条件に該当し、仲間にしたい相
手といえば、ひとりしか思いつかなかった。

「そういう意味でも、タマラは必要だな……」
 ゼルスを倒した俺が、人里に下りて初めてまともに言葉を交わした少女がタマラだった。
 いや、少女というのは見た目だけで、少なくとも肉体的には俺より年上なのだが。
 代々魔族と戦ってきた家系だとかで、人間にしては類まれな戦闘力を持っており、その実力を買われて王立学校における戦闘訓練の教師も担当している。
 能力的に、少なくともこの街の住民の中で、テイムすることに最も意義があるのはタマラだろう。

「あとは、快適な旅ということでしたら、人数が増えた時の移動手段や、雨露をしのぐ方法……食料や荷物を持ち運ぶ手段なんかも、あると便利かと思います」
「すぐには揃えられそうもないな。……まあでも、確かにいずれは必要になるか」
 確かにそうだろうなと納得する半面、意見がぼやけつつあることに気づく。目的がはっきりしていない今の状況では、それも当然だろう。
 ひとまず、ここまで議論ができれば充分と感じた。

「建設的な意見をありがとよ、ラクシャル」
 ちゃんと考えてくれたのを褒めるつもりで、ラクシャルの頭を撫でてやる。
 ラクシャルは嬉しそうに目を細めて、撫でられるがままになっていたが、やがてそれだけでは我慢できなくなったのか、身を乗り出して飛びついてきた。
「えへへ、真面目に考えた甲斐がありました! ヴァイン様ーっ♪」
 胸に頬をすり寄せて甘えてくるラクシャル。
 甘く爽やかな髪の香りに鼻孔をくすぐられ、俺は動けなくなってしまう。
 ……本当に、卑怯なくらい可愛らしい奴だ。

 などと考えていたら、ラクシャルはおもむろに俺の制服に手をかけ、脱がそうとし始める。

「……おい、何やってんだ」
 俺の問いに、ラクシャルは恥ずかしそうに目を伏せて答える。
「ヴァイン様が先ほど、夜の生活のことだけではないとおっしゃいましたので。夜に限らず、白昼堂々そういう行為に及ばれるつもりなのかと……」
「そういう意味じゃねえ」
 いや、俺個人としてはまんざらでもない。まんざらでもないのだが、そういうことをおっぱじめるには場所が悪い。

「そういうことは、また機会を改めてな。ほら帰るぞ」
「わかりました。こういうことはまた今度ですね!」
 今から待ちきれない様子で答えるラクシャルを連れて、俺は空き教室を後にした。