『外道王子の楽園興国記』

外道王子がよくわかる特別短編

グラウフ大陸南部の広い地域を占める大国、セレン王国。その王宮の一室にて、五人の男女が円卓を囲んでいた。セレン王国第六王子、シャノ・アトロシアス。シャノの専任メイド、プラム・エースウィート。王宮騎士、エレイン・アークブレイド。シャノの妹にしてセレン王国の第一王女、メアル・アトロシアス。隣国ゾロディア王国の第二王子、シルヴァ・ゼドファング。

 「はい注目。今から情報共有を始める」シャノは他の四人の顔を順に見回して、小さく手を打った。「えー、知っての通り、ここにいる五人の中で、シルヴァだけは隣国の出身だ。そこで改めて全員の紹介と、今後の目的についての共有を行う」四人が頷いたのを確認してから、シャノは自分を指差した。「まず、俺はシャノ。便宜上、セレン王国の第六王子だ。魔女の血が混ざってるから、正統な王族じゃないけどな。まあ、後を継げないなら自分で国を興せばいい。というわけで、俺と女たちだけの国を作るために誠心誠意頑張っている。応援しろ」「……は、はあ……」説明を受けて、シルヴァは困ったように苦笑した。「まったく誠心誠意ではない気がするんですけど。殿下ときたら、行きついた村で女の人だけ集めて宴を開いたり、わたしの同僚のメイドたちにも次々と求婚したり、そんなことばかりして……」

 ジト目で苦言を呈したのは、メイド服の少女——プラムだ。「細かいことを気にするな。次、どんどん行くぞ。プラムは見ての通りのメイドで、俺の専任だ。家事全般と乳のデカさにかけては並ぶ者のない、優秀なやつだ」「……ひとこと余計です」顔を真っ赤にして、プラムは自分の胸元を腕で隠した。「あと、相当なむっつりスケベだということも付け加えておいてやろう。プラムの奴、俺が持っていたエロい本を没収しておきながら、後でその本を——むぐっ」ものすごい勢いで手が伸びてきて、口を塞がれた。

 「あははは。何でもないですよー。何でもないですよね、殿下?」身を乗り出した体勢で、ぷるぷると肩を震わせながら、プラムは有無を言わせぬ口調で言った。これ以上プラムをいじっても仕方ないので、気を取り直して、紹介を続ける。大剣を背負ったまま器用に椅子へ腰かけている、金髪の女騎士を視線で示した。「エレインは王宮騎士だ。剣の腕は立つし、良くも悪くも裏表がないから信用できる。一見男まさりにも見えるが、なかなかいい女だぞ」「……その“いい女”というのはやめろ、シャノ。私は女である前に騎士であって、決してそのような目で見られる筋合いは——」「それと、エレインは日頃から鍛えているだけあって、かなり良い具合に引き締まった美しい尻の持ち主だ。ここ重要だな」「聞いているのか、シャノッ! 誰が美しい……し、しッ、尻だと!?」ゆで上がったように耳まで赤くなって、エレインは円卓を叩いて立ち上がった。まあまあ、とプラムが間に入ってエレインをなだめる。

「……紹介っていうか、シャノが女の子を品評してるだけに見えるんだけど」軽蔑の目でこちらを睨んで言ったのは、第一王女のメアルだ。「俺のことはシャノじゃなくて、お兄ちゃんとかお兄様とか呼べ。俺がわざわざ説明してるんだから、メアルも関係がよくわかるように協力をだな」「呼んで欲しいなら、普段からもっと兄らしく、威厳のある言動を心がけなさいよ」そっぽを向いて言い放ってから、メアルはちらりと様子をうかがうように、こちらを見やった。「……それで、私は?」「ん? メアルがどうした?」「だ、だから、私のことも紹介してよ。まあ、さっきの二人と同じように、いやらしい目で見てるとしたら承知しないけど——」「あー、メアルは……まあ、妹だな」「はあ!?」メアルはこめかみに青筋を浮かせて叫んだ。「何よ、そのテキトーな紹介は!? プラムやエレインのことは褒めちぎってたくせに! 胸やお尻が膨らんでるのがそんなに偉いわけ!?」「お前さっき“いやらしい目で見てたら承知しない”って言ったろ」「だからって私だけ除け者にしないでよ、バカ! 変態! この間なんて、私がお風呂に入ってるって知りながら素っ裸で入ってきたくせに!」

——ガタッ、とプラムとエレインが席を立つ音がした。「……殿下? 今の王女殿下のお話、詳しく聞かせていただけますか?」「シャノ、貴様……! 異母兄妹とはいえ、こともあろうに実の妹の入浴中に乱入したあげく襲いかかるとは……許せん! ここで成敗してくれる!!」プラムとエレインの言葉は殺気に満ちていた。というか、エレインの方はいつの間にか話が飛躍している。不穏な空気に、着席したままのシルヴァがきょろきょろと皆の顔を見回す。「ま、待ってみんな、ケンカはやめようよ。落ち着いてっ」 「心配すんな。こういう時は、俺の魔法が役に立つ」魔女の子であるシャノは、母親から受け継いだ魔法を使うことができる。

 その名は、オーバーライト——対象者の記憶を改竄する魔法だ。「そうか! 今の話を、みんなの記憶から消すんだね?」「そんなことをしてもつまらん。もっと効果的な方法がある」人間の記憶にはいくつかの種類があるが、体の感覚も、一瞬だけは記憶に残る。たとえば、何かにぶつかったという記憶を与えれば一瞬痛みを感じるし、背中に氷が触れたという記憶を与えれば、冷たさで反射的に跳びあがってしまうこともある。そしてそれは、快感についても言えることだ。「なっ……シャノ? まさか、また私にその魔法を——!?」怯むエレインにニヤリと笑い返して、シャノは魔法を発動させ、感覚記憶を植えつける。——お前の胸は摘まれ、舐られ、吸い立てられる! お前が最も感じるポイントを、的確に突いて——!

「んん——ッ!!」自分の胸を両腕で抱き、唇を噛んでエレインは膝をついた。一瞬で戦意を喪失したエレインを見下ろし、シャノは不敵に笑う。「クックック……防具で守られた胸でも、こうやって性感を与えて弄り倒すことができる……俺の前では、どんな女も裸同然ということを知れ!」「すごい魔法なのに、ろくでもない使い方してるわね……」眉をぴくぴくと動かしつつ、メアルが感想を漏らした。「……わかりました。シルヴァ王子に説明してる最中でもありますし、さっきの件は一旦、棚上げにしておきます」身悶えするエレインを支えつつ、プラムが溜息交じりに言った。「まあ、紹介はそんな感じだ。今後やることとしては、いい女を探して俺のもとに迎えることと、女を不幸にする奴がいたら完膚なきまでに叩き潰すこと。この二点だな」シャノが簡潔に締めくくると、シルヴァはぎこちない笑みを返した。「えーと……シャノくん、いいかな?」「何か質問があるか?」「みんなのことは、今の紹介でよくわかったよ。それで、せっかくだから、ボクのこともみんなに紹介してくれたら嬉しいなって……」「シルヴァのことは話せん」「ええっ? ど、どうして?」「何故かわからんが、お前のことを説明すると色々と核心に触れる気がする。それがどうまずいのかも知らんが、とにかく今はダメだ」「そんな! う、うう……いいもん! シャノくんが説明してくれないなら、ボクが自分で言う。ボクは——」

——お前は、生まれてから今までの記憶を全て失う!! 「はうっ!?」シャノが魔法を使うと、シルヴァは一瞬びくりと身震いした。つぶらな瞳で周囲を見回して、きゃっきゃっと赤ん坊のように無邪気に笑う。「危ないところだった……今日はもう解散にするぞ」「……あの、殿下。解散って、シルヴァ王子はどうするんですか?」「心配すんな。後でちゃんと戻しておく」不安げに聞いてくるプラムに、シャノは肩をすくめて答えた。「——発売日までには」